自遊通信 No.91(2025 夏号)
発 行 自遊学校 文/河原木憲彦 絵/野口ちとせ
誰でも忘れられない景色はあります。先日、大阪の知人に「高知に長いこと住んでいるんですね」と言われました。大阪から行くと1日がかりの不便な僻地なのに、何がそんなに良いの?という表情で。答えを探して、しばらく考えて答えました。「飽きないんですよね。」
高知に来る前は東京に住んでいました。1980年頃のこと。東京は密度が濃くておもしろいけれど息苦しい街で、20年住んだら他所に行きたくなりました。その頃、縁あって廃校になっていた旧竜ヶ迫小学校(現自遊学校)を見に行くことに。
曇った日でした。小高い丘を歩いて上がっていくと開けた空間が現れ、丈の長い雑草が一面に生い茂っていました。広い校庭の向こうに陽に灼けて黒ずんだ建物が見えました。お化け屋敷みたいと思いながら、草をかき分けて校庭の真ん中に立って広い空を見上げた時、ここに住もうと思いました。
それから40年近く経ちましたが、自然に囲まれたこの空間に未だ飽きません。ここでは夜は暗く陽は時に過酷です。人工物によってつくられた便利と違う快適があることを、ここに来て知りました。
見れるかも3万回の夜と昼